居酒屋での話

サラリーマンの居酒屋話です。

読書感想:アルルカンと道化師/池井戸潤

発売してKindleでほぼ即買い。

テレビでは大いに盛り上がった。

この放映期間中に、「オレたちバブル入行組」と「オレたち花のバブル組」も読んだので、

すっかり半沢直樹にハマっていた。「アルルカンと道化師」はこの2冊の前の時期、半沢直樹が大阪西支店に赴任した直後の物語だ。

東京中央銀行M&Aを積極的に推進して、そこにまつわる金融業で業績拡張を、会社のキャンペーンとしている。そんな中で起こった事件だ。

経常損益が2期連続赤字となる老舗の中小企業への追加融資とM&Aの話が交差して、話が進行していく。詳細はネタバレになるので書かないけど、美術、絵画業界の裏もわかるので、そちらに興味がある人は更に楽しめると思う。

半沢直樹シリーズは、最後は正義が勝つ勧善懲悪モノなので、安心してストーリーを楽しめる。テレビドラマでも、役者の演技や演出が大いに受けていた。

小説なので派手なアクションや顔芸はないけど、その分、銀行の裏側を始め事件の背景や登場人物の心理や半沢直樹の人としてのルーツなどが書き込まれている。

そして率直な感想は、銀行って悪の巣窟だな、と言うことだ。

役員や支店長、部長クラスになると、不正融資や裏金つくり等が画策される。

 

半沢直樹はその悪事を暴くことで大逆転ホームランを豪快のかっ飛ばして倍返しをするのだ。

 

しかし、よくもまぁ、これだけ悪いことするもんだ、と銀行員幹部の道徳心の無さは、まさに水戸黄門の悪代官そのもの。金融機関のCSRは日本の大問題かもしれない。

癒着や利権争い、派閥や学閥、パワハラ等まさに悪事のオンパレードに見える。

軽快なストーリー展開に気付きにくいけど、これがよく見えるのも面白いところ。

銀行やその他金融関係の方には失礼かもしれないけど、あくまで小説の中の話です。

でも、コンプライアンスを主張するだけでなく、見たり聞いたりしたら、ちゃんと半沢直樹してほしいな。

 

 

 

 

 

 

書評:コロナ後の世界

コロナ後に日本の社会はどのように変わっていくのか。
世界の知の巨人たちへのインタビュー集。ジャレド・ダイアモンドポール・クルーグマン、スコット・ギャロウェイ、リンダ・グラットン、マックス・テグマーク、スティーブン・ピンカーとそうそうたるメンバーだ。

今やちょっとした評論家やコメンテーターたちが、

コロナ後の世界を盛んに語り始めている。
それなりに興味はあるが、歴史や社会の見方での奥深さや専門性からの未来を感じるのにこの本は最適だ。
そう量のある本ではないのでサクサク読める。

個人的に一番参考になったのは、スコット・ギャロウェイの見方だ。

「the four GAFA」の未来版として納得性がある。

次のGAFAについても言及してサービスしている。
ポール・クルーグマンの経済の未来予想はリフレ派に寄り過ぎているけど興味深い。
マックス・テグマークのAIの未来も読ませる。

これからは必ずAIとの協調が必須になる。
人類はAIをコントロールしていけるのか?恐ろしい未来だけど完全否定できる人はいないだろう。
ジャレド・ダイアモンドには大きな期待をしたけど、やや残念だった。日本の歴史への視点と中韓への対応示唆については、疑問が残る。
ドイツとポーランドの関係と単純比較もいただけないが、

何か読み違えているのかもしれない。
悪意ある外交を受け入れるのはグローバル時代では、
世界の他の国から場当たり的で無責任に見えて大きなリスクとなるのだ。
リンダ・クラットンは、働き方について、

日本の労働市場は女性の参加が鍵になるとの見解。
スティーブン・ピンカー認知バイアスでのマスコミ、

メディアのあり方に疑問を投げかけ、
エネルギー課題についても、規制よりも新しいクリーンエネルギーに目を向けるべきだと言う。

全体を通して「レジリエント」が今後のキーワードになると感じた。
柔軟で強靭という意味だけど、言ってみれば虚弱性の反対の概念だ。

ブラックスワンの著者のナシーム・ニコラス・タレブブラックスワンに対抗する手段を提示した「反虚弱性」という本には、虚弱性の反対概念として、全く新たな理論が展開されている。つまり、剛健だとか頑強なのは、ブラックスワンに弱いというのだ。混乱や価値転換があっても柔軟に対応していく強さが必要であり、
そう単純な話ではない。

興味がある方はどうぞ。上下巻で読み応えあります。

 

書評:the four GAFA 四騎士が作り変えた世界/スコット ギャロウェイ

今、我々の社会生活は劇的に変化し始めている。
それを読み解き、今後の行動指針を考える大きなヒントになるのがこの本だ。

PCがワープロに変わって一般家庭に普及し、電話回線を使ってパソコン通信が始まった。そしてインターネットが出てきて、それまでの情報通信が根底から変わってしまった。これはまだ序の口として一方では個人は、固定電話から携帯電話を使い始めた。そしてiPhoneが登場して、スマホが出てくる。今や早ければ小学生の頃から自分のスマホを持ち、デジタルで情報を交換する。これは何を意味しているかと言えば、義務教育の子どもが、個人として社会と関わることだ。こんなことはこれまでの社会ではなかった。そして、個人は一人ひとりが高性能の通信機能付きコンピュータをポケットに入れている時代になったのだ。このデジタル通信インフラをフルに活用しているのが、GAFAだ。

我々はインターにアクセスして個人の興味や欲望、そして体験を共有化している。好むと好まざると現代はそういう環境なのだ。

グーグルには誰にも言えない興味までを打ち込んで調べ、その検索結果を我々は無条件に信じる。その情報はもちろんグーグルのものだ。

アマゾンは、日常の面倒な買い物を極限まで簡略化した。洗剤やトイレットペーパーなど、買い物に行くのに時間を使うが馬鹿らしいなってしまった。スマホでチェックしたり、アレクサに言えば翌日には家に届くのだ。ここでもそのデータはアマゾンのものだ。

フェースブックは人々の心の幸福をスマホの中で実現している。誰かと仲良しになり、体験を共有したり、認め合うことは最高度の幸福なのだ。そして誰かの書き込みのイイねした情報はやはりフェースブックのものだ。

そしてアップルはそうした先進のデジタル生活のトップブランドだ。マックPCを使い、iPhoneを所有することで、魅力的な人物になれるのだ。アップルはブランドショップ街の中にシンプルで魅力的なアップルストアを出店して、高級ブランドの仲間入りをしてイメージを維持する。

この本の中にはその詳細が書かれている。
彼らは何を実現して何を目指しているのか?それによって我々の生活はどう変化していくのか?GAFA以外の企業はすべてGAFAに飲み込まれていくのか?

次のGAFAは現れるのか?
この本を自分で読んで、現代何が進行しているのかを認識して欲しい。
そして、自分の頭で、この先の社会を考えて欲しい。

それだけは決してグーグルで調べてはいけないのだ。

the four GAFA 四騎士が創り変えた世界

書評:日本人の9割が知らない遺伝の真実/安藤寿康

■「人間は遺伝子を運ぶ方舟である。」
人間の生命体としての存在意義はここにある。ある人は本能と言うかもしれない。
子供を生むことを前提としているので、ある人は差別だと感じるかもしれない。
でも、それは生命体の基本的な現実なのだ。「自分が今ここにある」現実は、まさにこの結果であって、
それを証明しているので、誰も否定できないと思う。
性的な嗜好や精神的、身体的な病気、もしくは外的環境や経済要因によって、遺伝子を運べない人も、
自由意志の選択として遺伝子を運ばない人もいる。

なぜ、少子化なのか。

個人的には社会要因、経済的な要因が大きいと考えている。
簡単に言えば、子供を産み育てることに経済的なメリットを感じないのだ。
かつては、子供を産み育てることは、経済的な要因よりも幸福の条件として認知している人が多かった。
やや古いタイプの僕もそうだ。
自分の子ども誕生し、育てていくそのときその時の経験や感情こそが、人生の喜びだと思うからだ。


そして、それは金では買えない自分の人生の喜びだ。
でも、これこそが「人間は遺伝子を運ぶ方舟」なのだ。

 

■「ロビン・ダンバーによれば安定した社会関係を結ぶことができる人間集団は

平均150人程度」という。
今や、SNSやブログでフォロワー数千人、数万人というネット情報社会が生まれ、
150人等と比較できないほど人間の関係性が膨張している。
しかし、ハードウエアである私達の身体は20万年前からほとんど進化していないというので、脳の能力、つまり認識力や判断力にとっては、

これまでとは違った要素が必要とされている。
つまり、全く新しい領域に入っているのだ。

はたして、人間関係の膨張が幸福と結びつくのか?
たんなる金儲けと割り切れる人もいるのかもしれないけど、行末を見ていきたい。

■「学力の70%〜90%は子ども自身にはどうしようもないところで決定されてしまっている。」
自己責任を声高に主張する人もいますが、人の能力の半分は遺伝、残り半分は非共有環境によって形作られている。

 

これは恐ろしい現実だ。努力して勉強すればできるようになると、親から、教師から言われ。
世の中の常識だと思っていたけど。真実は違っていたのだ。
では、どう生きれば良いのか?
答えが知りたい人は、ぜひこの本を読んで欲しい。ここにこの本の本質がある。

 

■「ワーキングメモリー
この概念は初めてこの本で知った。
例えばだが、チンパンジーのワーキングメモリーは基本的に一つで、同時に一つのことしか考えられない。
ワーキングメモリーが増えて行くと言うのは、次のように考える。
「太郎は花子が好きだ」はワーキングメモリーがー一つ。「太郎は花子が好きだ」と次郎が言ってたよ。
そして、「太郎は花子が好きだ」と次郎が言ってたよって三郎は聞いたそうだ。とワーキングメモリーが増えて行く。

 

ワーキングメモリーの拡張こそが人間の能力の特色だと思う。
この概念をどう消化するのかは、まだ未知だけど新しい考えた方として、

これからのAIやIoTの活用に有効だと感じた。

以上面白そうなとこ抜粋してみた。

日本人の9割が知らない遺伝の真実 (SB新書)

酒場評論:八日目の蝉

角田光代の2007年の小説。映画は2011年。出演は、井上真央永作博美小池栄子。2010年に、檀れい、北のきいでTVドラマ化されているようだが観ていない。

原作を読んでから映画を観たパターン。

小説を読み始めると喜びに打ち震えた。小説らしい小説なのだ。ホームランバッターが出てきてきちんとホームランを打つ喜び。その期待感、ワクワクの来るぞ、来るぞ感がある。途中ややあり得ない展開もあるが、素直に感動できる小説だ。

子どもに対しての惜しみない愛情とそれに応える子ども側からの愛情は一貫している。そこにこの小説のテーマがしっかり流れている。

読んでいる途中小豆島に行きたくて仕方なかった。そのあたたかく優しい日差しの中でただ、ただ佇んでいたくなる。

映画は、自分にとっては観ないほうが良かった。小説の中で作り上げたイメージが完全に崩れてしまった。あの想像していた小豆島のイメージを返して欲しいのだ。

小豆島を舞台にした2ラブレターと言う昼ドラマが素晴らしかった。勝手にそれを想像して期待があったのかもしれない。

八日目の蝉

八日目の蝉 通常版 [DVD]

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酒場評論:イニシエーション・ラブ

乾くるみの2004年の小説。映画は2015公開、堤幸彦監督で主演は松田翔太、他に前田敦子木村文乃

実はまだ映画は観ていない。正確に言うと観るつもりは今のところ無い。原作は約30年前の恋物語がそのまましっかり詰まっている。あの頃の空気を知っている世代には胸が一杯になってしまうだろう。男女の出会いでの感じ方や仲良くなっている段階、そして仲良くなってからの展開。なかなか読み止めることができなくなって、一気に読み込んでしまう。そしてTV、音楽、流行りモノなど数々の懐かしい文化が背景に散りばめられ、いちいち懐かしさに胸がキュッとなる。みんな若くて今よりもやたら元気で、それでいて何か足りなくて、その何かを求めてあえぐように毎日を送っていた。一番大切な人に出会えた時の踊るような、それでいて静かに澄んだような気持ち。

もう少ししたらもう一度読み直したい。映画は自分のイメージを崩してしまいそうなのだ。もう一回読んだら観るかもしれない。

イニシエーション・ラブ

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酒場評論:悪人

「悪人」は吉田修一著作で2007年に出版、映画は2010年に公開。主演は妻夫木聡。他に深津絵里満島ひかり柄本明等。

映画を先に観た。さまざまなテーマが実に奥深く心に焼き付いた。祐一(妻夫木聡)は気弱で無口だけど、ひたむきに人を愛する優しさもある。感情表現が不器用な点が重要なキーでもあります。しかし、こういう人はどこにでもいるだろう。

私、この国道沿いの学校行って、国道沿いのお店で働いて、結局この国道沿いで人生が過ぎていくんだ、みたいなことを光代(深津絵里)が言う。

日本の地方都市の退屈さがそこにはあると思う。そこでどんな出会いがあるというのか?その退屈さのあまり、人と繋がりたくて携帯の出会い系サイトで祐一と知り合う。

祐一も同じなのだ。自分を見ていて欲しいし自分を認めて欲しい。自分を大切だと言って欲しいのだ。その渇望の心の叫びが聞こえる。

では、都会に住む人は人はそんなに簡単に、本当に大切な人と出会えるものだろうか。

その人が笑っていれば幸せ。その人のことを考えると心が暖かくなる。そんな人がいるのか?そんなセリフがあるが心に突き刺さる。

映画はほぼ原作に忠実に描かれておりイメージのズレもほぼ無いと思う。でもこれは先に映画を観たのでバイアスがかかっているのかもしれない。

映画を観て、無性に原作小説が読みたくなった。

映画にはないディティールがあり楽しめたし、その部分は映画のイメージで僕の頭のなかで自然に再現された。

これも映画が素晴らしかったからだと思う。

ちなみに小説を読んでいると、九州弁にハマります。

酒場評論:白夜行

東野圭吾の1999年の長編小説。2006年にTVドラマ化、2011年に映画化されている。幼い頃の殺人事件の秘密を共有する二人の成長を通した物語だ。

僕はこの順番で読んでから観ている。文庫本は綴じられるギリギリサイズの厚さではないだろうか?非情に分厚い本で持ち歩きにくいが、電車では誰しもが"凄い"と驚く厚さだ。それだけの分量のある内容なので、ドラマにしろ映画にしろ制限時間内にまとめるのが難しいと思う。

ドラマは、全11話。主人公を綾瀬はるか山田孝之綾瀬はるかの美しさはこの頃がピークだったかもしれない。観るひとすべてを魅了し目が離せない。また、複雑な精神変化を見事に演じきっている。山田孝之は心の傷があり屈折しているが頭脳明晰でいて愛する人にすべてを捧げる青年にも心を奪われる。脇役は武田鉄矢、八千草、渡部篤郎などで豪華で華もあるベテランの仕事できっちりディテールを構成している。

映画は2時間以上の長編。主人公は堀北真希高良健吾。刑事役に船越英一郎。原作小説に近いニュアンスをキープしているが、この時間に治まらず重要なエピソード等も入らず、ストーリーの短絡もはげしい。小説やドラマを観た人ならついていけるが、初めて見る人には理解が難しいと思う。刑事役に船越英一郎という段階で映画というよりも2時間ドラマっぽさが出てしまうが困った。

さて、僕の一番のお薦めはTVドラマだ。原作にはない二人のエピソードや心の変化を描いている点で、原作への忠実さは下がる。しかし、その部分で原作を上回る感動がある。特に最終話は涙なしには見られない。綾瀬はるかの美貌と底知れぬ強さや山田孝之のナイーブな傲慢さ。柴咲コウの歌う主題歌にもしびれる。

できればもう一度見ようかと思っている。

白夜行 (集英社文庫)

白夜行 完全版 DVD-BOX

白夜行 [DVD]

 

 

 

 

 

 

 

酒場評論:映画と原作小説

読んでから観るか?観てから読むか?人によって好みもある。内容や映画の出来栄えによって違いもある。

僕は読んでから観る方だ。先に映画を観てしまうと、どうしても俳優や風景場面などのイメージが固定化してしまう。原作小説を読む際にイメージが限定されてしまう。でも映画が良く出来ていたから、原作小説を読みたくなる場合もある。その場合は両方満足できる場合が多いと思う。逆に原作小説を読んで、映画も見たくなった場合、かなりの確率でガッカリする。約2時間弱の映画では、小説の中の細やかな設定が描き切れない。そのフラストレーションが多分、作り手にも観る側にもあるのだと思う。評判になった小説の映画化と言うのは興行的な成功を狙ったイージーな手法のようにも思える。映画にする必要があるのか?と。